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きみよりほかにはしるものなき 花かげにゆきてこひを泣きぬ

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恋の道行*
なんかノリと勢いで書いております恋の道行。

かなり特殊設定になりつつありますすみません。







伏見の一件から思いを通い合わせた土方と千鶴は、誰とも知れず、静かに関係を深めていた。
否、勘のいい原田や沖田は気付いているだろうが、その事に触れることはなかった。
荷物持ちに、と千鶴を連れて出てはつかの間の逢瀬を重ねるも、屯所にいる時は副長と小姓以外の関係でしかなく、その結果よからぬ話が土方の元へと舞い込んできた。

「見合いだぁ?」
「うん。身分的にも悪くないし、何よりお前ももういい年なんだ。そろそろ身を固めておとくさんを安心させてやった方がいい」

姉の名前を出されると分が悪いが、土方には千鶴という我儘を言って待たせている女もいる。
それを差し置いて、他の身分のいい娘に鞍替えする程度の遊びの仲でもなく、かと言って近藤のように妾にするようなつもりもない。
いつの間にこれほど惚れ込んだのか、千鶴と別れるということは、土方の中ではありえない事であった。

「悪いが近藤さん、その話は断ってくれ」
「何故だ?」
「今はまだ所帯を持つつもりはねぇが、いずれそのつもりの女ならいる」
「なにっ?そんな女がいるとは、みずくさいではないか…」
「悪いな。そいつにも無理を言って待たせてるんだ、それを捨てることはできねぇよ」
「そうか……しかし、弱ったな…」
「ん?アンタ、余計なこと言ってねぇだろうな」
「いや…相手の娘さんがな、町中でお前を見て一目惚れしたらしくてな…」

言葉を濁す近藤に、なんとなく想像を付ける土方。
どうにもこれは面倒なことになりそうだ。


そう思う土方と近藤の元へ、つい先程まで男の口から語られていた千鶴が茶を持って現れた。
その後ろには、菓子を持った沖田がついて来ている。

「失礼致します」
「総司!寝てろっつったろうが!」
「そんなこという土方さんには、お茶請けはありませんからね」
「いらねえよ!」

ちらりと千鶴を見れば、困ったように眉尻を下げて近藤と自分のそばへ茶を置いている。
これが自室で他の二人がいなければ、と思わなくもないが、屯所での逢瀬は千鶴が人目につくのを気にしてなかなか触れ合えないのが実情だった。

「それで、なんのお話なんです?」
「ん?ああ、トシに見合いが来たんだがな…」
「断ってくれって言ってたんだよ」
「ふ~ん?」

沖田の目が千鶴と土方、それぞれに探るような視線を投げてきたのを感じ、二人ともに気まずさを感じていた。
そんな二人を見てにんまりと笑を浮かべながら、自分で持ってきた茶請けを口に運びながら口を開く。

「ま、土方さんもついに年貢の納時というか、決めたおなごがいるみたいですしね」
「総司は相手のおなごを知っているのか?」
「誰、とは聞いてませんけど、そうだろうな、というおなごは知ってますよ」

近藤さんも、土方さんを見てたらわかりますよ。などと余計な事を言う沖田に、急いで土方が口を挟む。

「それより!見合いを断る方法をだな…」
「簡単ですよ。そのおなごと所帯持っちゃえばいいんですよ」
「おお、そうだな。そもそもおなごを待たせるのはよくない!お琴さんのように縁遠くなってもいかんしな!」

昔の許嫁の名を、今の女の前で出すのは止めてくれ、といいたくても言えない現状。
それ以前に、よからぬ方へと話が向かっている。
千鶴の張り付いた笑顔が土方の視界に入って恐ろしく感じた。

「込み入ったお話のようですので、私は失礼致します」

そう言って部屋を出ようとする千鶴へ、沖田が止めの言葉を投げかけた。

「何言ってるの、千鶴ちゃん。君、当事者でしょう」

思わぬ言葉に部屋から出ようと腰を上げかけた状態で千鶴の動きが止まる。
千鶴だけではない、土方も近藤も止まっている。

「なっ…何言ってんだ総司!」
「そうですよ、沖田さん!」

「トシ!」

なんとか二人が否定しようとするが、今更遅い。
その二人の様子を見た近藤が、一喝する。

「…おう…」
「総司の言ったことは本当か」
「いや、あの…近藤さん?」
「雪村くんと恋仲なのかと聞いているんだ」

―言い逃れはできない、か。

そもそも、近藤へ嘘などつきたくない土方は腹を括って答えた。

「ああ、さっきのは千鶴のことだ…」
「何故言わなかった」
「千鶴とは、二人で話はつけてある。いずれ近藤さんを御大名にしたら、俺は隠居するからその時に、ってな」

だから、近藤さんに話すまでもねぇと思ったんだよ。と言えば、近藤の反論が始まった。

「いかん!いかんぞ、トシ!女房子供がいてこそ、男と言うものはいざという時に働けるものだ!すぐにお前の休息所を設けて、雪村君をそちらに移そう」
「待ってくれ近藤さん!こいつは妙な奴らに狙われてんだ。屯所から出すのは得策じゃねぇ」
「ん…そうか」
「何言ってるんです。日中は隊士の巡察やなんかで人目はあるし、夜は土方さんが通えばそれで済む話でしょう」

それにそもそも、休息所は屯所から近距離の場所という制約もありますしね。と畳みかけるように沖田が続ければ、よし!とばかりに近藤が膝を叩く。

「トシ!俺の休息所の近所にすればいい。そうすればお孝も喜ぶだろう」

お孝は近藤の妾の一人である。伏見の折、千鶴の髪を先笄に結ってくれたのは、他ならぬこのお孝であり、千鶴としても何度か面識はある。
それに年齢もそれほど変わらないので、親しくもなれるだろう。

「あの…近藤さん。御言葉は有難いのですが、私は父の行方が分らないままですし…」
「いや、勿論綱道さんはこれからも探すし、雪村君が気になるのなら、今のように巡察に加わってくれても構わんよ。しかし、実際問題、近頃君は男の振りをさせるのも難しいくらい、娘らしくなったからなぁ」
「いやだな、近藤さん。土方さんのせいに決まってるじゃないですか」
「総司!」
「トシ!お前という奴は、まさか雪村君を…」
「ああ、いや、近藤さん…」
「すぐにだ。すぐに休息所の手配をするんだ!」

良くも悪くもまっすぐな近藤の勢いに押され、休息所に千鶴を移す事を約束させられてしまった。
とは言え、趣味にうるさい土方の好みの家を探すにも時間がかかり、更に千鶴を女に戻そうにも、着物一枚持ち合わせていない、家財一切、江戸の家に置いて来てある彼女を身一つで休息所へ追いやるわけにもいかず、しばしの猶予が設けられることとなる。
その間に千鶴から京で唯一の友人である千姫へと今回の事と次第が伝わるのも無理からぬ事であった。








「では、千鶴ちゃんは預かりますね」

千鶴の文が届いて数日後、千姫が君菊を連れて屯所に現れ、偶然居合わせた近藤と話をつけて千鶴を連れだしたとき、土方は会津藩に呼び出されて屯所を開けていた。

「なんだって預けちまうんだよ!」
「いいじゃないか、こちらの準備が整うまで、雪村君の仕度を整えてくださると言うんだ」

実際、千姫の元へ預けられた千鶴は、妻の在り方や嗜みなど、いわゆる花嫁修業と呼ばれるものを叩きこまれて土方の元へと帰ってきた。


大急ぎで探した休息所に千鶴を迎える日、土方は近藤の妾宅へ連れて行かれ、裃に着替えさせられる。

「おいおい、近藤さん…大事にしすぎじゃねぇか?」
「何を言う。雪村君はお前の妻女になるのだから、ちゃんとしてやりなさい」

近藤の妾宅であまり大きな声では言えないが、妻女と妾は違うと近藤が言ったも同然である。
そう言われてしまえば、反論もできずに裃に着替え、すぐ傍の貸家へと向かう。
同じく礼装に着替えた近藤が付き添い、非番の幹部連中が面白半分で控える中、島原から駕篭が乗りつけられた。


千鶴の後見よろしく、礼装を纏った千姫や君菊に手伝われながら、白無垢の千鶴が駕篭から降りれば、事情を知る新選組の連中や近隣の住民から歓声が沸く。
それを居間で聞く土方の手に、力がこもる。

千姫に手を引かれて現れた千鶴の姿に土方は、はっとさせられた。
確かに預けてよかったのかもしれない。
ひとりでは、千鶴にここまで準備してやる事はできなかっただろう。

「鬼の宝をお持ちしました」

得意満面に言う千姫に、土方は柄にもなく返す言葉も見つからない。
確かに宝だろう。
数が少ないという直系の女鬼なうえ、これだけの器量だ、宝と呼ぶに相応しい。
その宝が、名実ともにこの日、土方のものになるのである――。


両者、親族がいない為、略式ではあるが婚儀をかわす。
久しぶりに顔を合わせたというのに、千鶴の顔は綿帽子をかぶって俯いている為よく見えず、新郎である土方はこれでもかと次々に酒を注がれ、日が暮れる頃には意識混濁としていた。

「悪いな、千鶴…土方さん潰れちまった」

先に宴席を離れ、白無垢を脱いで身支度をしていた千鶴へ、部屋の外から原田が声をかければ、支度を手伝っていた千姫が中から応える。

「もう!新婚さんの初夜を邪魔するなんて!」
「お千ちゃん…こうなることは察しはついてたから……原田さん、お床を延べますから、連れてきていただけますか」
「すまねぇな」

結婚祝いの布団を敷いていると、原田に支えられながら土方が連れてこられた。
そのまま支えてもらいながら手早く着物を脱がし、夜着に着替えさせて布団へ転がす。

「千鶴はいい嫁さんになるな」
「そうでしょうか」
「ああ。後はもう、俺達も屯所に戻るからよ、戸締りだけしてくれ」
「はい…今日はありがとうございました。また改めてお礼に伺います」
「気にすんなって。じゃあな」

ちらりと眠っている土方を見て、原田が寝間から出ていく。
最後に障子を閉める前に、もう一言、千鶴へ送る。

「千鶴」
「はい」
「よかったな」

そう言えば、頬を染めて「はい」と答える。

「じゃあ、千鶴ちゃん。私達も片づけて帰るね」
「お千ちゃん、本当にありがとう」
「いいのよ。可愛い子、期待してるから」
「それは気が早いよ…」







しばらく物音と話し声がしていたが、今は静まり返っている。
客は帰ったらしい。
本来ならば親族や新郎である土方が見送らなくてはならないのだが、潰れているので皆勝手知ったるとばかりに片付けて帰ったらしいことを、戸締りに寝間を出た千鶴が悟る。
ガタガタと音を立てながら戸締りをし、寝間に戻れば、未だ眠気の去らぬ土方がぼんやりとしながらも目を覚ましていた。

「起こしてしまいましたか?」
「ん…わりぃ、つぶれたか」
「はい。原田さんがここまで連れてきてくださいました」
「さっそく寝間に俺以外の男を入れたのか」
「まぁ、酷い物言い!」

褥の上へ体を起こし、座ったままの土方が千鶴の体を抱き寄せながら憎まれ口を叩けば、素直に体を預けながら反論する千鶴がいる。
口では反論しながらも、その顔はころころと笑っている。
新婚の二人には何を言っても睦言になるらしい。
顔を寄せて口を吸えば、濃い酒精の香りに包まれる。
どうも、千鶴が下がったあとも随分と呑まされたらしかった。

「…ん…はぁ、……お休みになったほうが宜しいのでは?」
「なに、近藤さんに言われて明日は非番だ。飯も賄方が持ってくるから気にするな」

賄方が幹部の休息所の妻妾へ食事を運んでいるのは知っていたが、いざその立場になってみるとなんとも決まりが悪い。

「賄いまでお世話になっていいんでしょうか…」
「他の連中はそれで食ってんだ、お前だけ違うってぇのも道理がとおらねぇよ。それより、飯の心配よりてめぇの心配するんだな」
「え?」
「俺たちゃ実はどうあれ、これが初夜なんだ。夫婦の務めを果たそうじゃねぇか」
「あの…今日はお酒も過ぎてますし、このまま休まれたほうが…」

そこはかとなく、いやな予感がする。
否、いやな予感しかしないと言うべきか。
笑顔を引きつらせながら、体重をかけてくる夫をそれとなく押し返そうとするが、そう簡単にもいかない。

「なに、おめぇも生娘じゃねぇんだ。そんな怖がるこたねぇよ」
「いえ、あの…」
「こうなった以上、ガキが出来ても問題ねぇしな。安心して孕めよ」
「いけません…」

口で否やといいながらも、実際に強く拒むでもなく、形ばかりに手で土方の体を押せば、今度は土方がその手を取って指先に口付ける。

「ぁ……」

指先に触れた唇の感触に、千鶴の口から声が漏れたのを合図に、二人の夜は更けていった。








「おはようございます。朝餉をお持ちしました!」

そんな、少し緊張した声に土方の意識が戻る。
傍には、つい少し前までその体を貪った千鶴が、しどけない姿で横たわっている。

「あの~、副長…」

可哀想なことに、初夜を明けたばかりの土方家へ賄いを運ぶ担当となってしまった賄方の隊士が、遠慮がちにまだ表から声をかけている。

―ちったぁ気ィ利かせらんねェのか。

それは無理というものである。
賄方は賄を作り、担当の物はそれを幹部の妻妾の元へと運ぶのが仕事であるからして、彼は己の仕事を全うしている。
遅めに持ってきてもらいたいなら、前もってそう賄方に言っておかなかった土方の失策である。

「あの~、もし~…」

どんどん気弱になっていく声に、苛立ち紛れに立ちあがり、その辺に脱ぎ捨ててあった夜着を肩にかけて隊士の元へ行く。
僅かに残る酒のせいで痛む頭でガタガタと乱暴に戸を開ければ、膳を抱えて眉尻を下げた隊士が一瞬嬉しそうな顔をし、すぐさまハッとしたように顔色を変えた。

「さっさと置いて行け」
「はっ。お休みのところ、申し訳ありません!」
「まったくだ。いくらも寝てねぇっつーのによ…」
「あの…奥方様は…」
「あ?……ああ、奥は疲れ切って寝てるからな…昼餉は遅めの時間に持って来てくれるか」
「承知しました!」

頬を紅潮させて、土方と目線を合わせないようにしながら機敏な動きで膳を置いて、必要事項を聞いて逃げるように屯所へ帰っていく隊士を見送り、土方は再び戸を閉め、閂をかけて千鶴の元へと戻った。

「……だんなさま?」
「起きたのか?…賄いが飯を持ってきただけだ…まだ寝ててかまわねぇよ」
「はい……おまえさまも一緒に…」
「ああ、俺も寝なおすさ」

まだ夢心地の千鶴の眠る布団へ潜り込めば、ことりと土方の胸へ頭を預けてくる。
それを大事に抱えながら、土方も再び目を閉じた。








下帯に肩から長着をかけ、昨夜の激しさを物語るような乱れ髪の、色男でなければ様にならない姿の土方の色気にあてられて、憐れな賄方が屯所へ戻りつくと、厨に土方と負けず劣らず色街で人気の幹部隊士がいた。

「原田組長!」
「おう。新婚家庭はどうだったよ」
「組長は嘘つきです!」
「は?」
「副長、全然酔い潰れてなんかいませんでしたよ!」
「(あのあと励んだのか…)そうか」
「すごく気だるげで、すごい色気でした!」
「ちづ…いや、奥方は?」
「奥方様はまだお休みだそうで、昼餉は遅めに持ってくるように、と」
「そうか、ご苦労だったな」
「いえ…でも、出来れば今後は副長が泊られた翌日の朝餉は持って行きたくないです」

そう言う隊士の声に、それは賄方で相談しろと身も蓋もないことを言って、原田は厨から去った。
とりあえず、原田は他の幹部連中に『しばらく土方家に近付くべからず』と言ってやらねばならない。
果たしてそれが、夫に翻弄されている千鶴の為なのか、幼妻に溺れている土方の為なのか、そのどちらも見たくない自分を含む幹部達の為なのか、原田自身にも判断はつかなかった。
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