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きみよりほかにはしるものなき 花かげにゆきてこひを泣きぬ

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若紫 12
ひじちづでっせ!





HRが終って、急ぎ足で島女へ向かう。
そもそも終る時間が高校の方が遅いんだから、もう千鶴が帰っちまっててもおかしくねぇ。
が、あのお嬢様学校は部活やら希望者向けのお稽古やらが存在するからな。
千鶴がそんなので少しくらい遅くなってくれてりゃいいんだが。


心なしか小走りになりながら島女の校門へ行くと、千鶴が壁にもたれてるのが見えた。
待っててくれたのか!



冷静になれば、約束もしてないのに待っている筈もないんだが。
柄にもなく気分が良くなった。



「ちづ…」


「千鶴ちゃん!お待たせ~」
「そんなに待ってないし、大丈夫だよ」
「そろそろ菊が来る頃だと思うんだけど…って」



昨日も一緒に居た千鶴の友達が俺に気付いて千鶴に教えた。
俺じゃなかったのか、という落胆を感じるが、腹を括って二人に近寄る。



「あ~千鶴と帰ろうと思って来たんだけど、よ…」
「すみません土方さん。ちょっとお話があるんですけど」



千鶴に声をかけたんだが、友達が鋭い眼をして詰め寄ってきた。
あ?この顔、ちづが小学生の頃から一緒に居た顔だな…


「ちょっと、お千ちゃん…」


あ~そうだ。
よく晩飯食いながら千鶴の口から出ていた名前がそんなんだったな。
えらく古風な名前だと思ったから、なんとなく覚えてる。
……いや名前は俺も人のことは言えねぇが。



「いいから。千鶴ちゃんだと、流されて終わりでしょ?」



……よく分ってるな。
俺が流したんだが…


「私が見極めてあげるわ!」
「おい…」
「ということで、ちょっとその見目の良いツラ、貸していただけます?」



ニコリと笑いながら有無を言わせない雰囲気に俺は悟った。
こいつが俺のいない3年間、千鶴を守ってくれていたんだろうと。
そしてありがてぇ人物であると同時に、決して敵に回してはいけない、ということも。



「わかった。ちづ、ちょっと待っててくれ」
「あの…」
「ごめんね~千鶴ちゃん。本当にちょっとだけだから」
「ぅ、うん…」


お千と二人して千鶴から少し離れる。
しかし離れはしても、二人とも視界から千鶴を消すことはしない。
目を離した隙に、あいつはすぐにトラブルに巻き込まれるからな。





そして始まる尋問。


「で、土方さんは千鶴ちゃんをどうしたいんです?千鶴ちゃんとどうなりたい、でもいいですけど」
「千鶴本人には昨日言ったんだが、付き合いてぇ。傍に居てやりてぇんだ」
「そんな風に思うなら、なんで3年間も放置してたんです?」
「その辺りは面目ねぇが、なんせ千鶴に惚れてると自覚したのが昨日だからな」
「おそっ!まぁいいです…で?オトモダチは片づけたんでしょうね?」
「俺からは連絡しねぇし、向こうからは受信できないようにしたから大丈夫だ」


ポケットから携帯を取り出して手渡す。
ちづにも見せたことないってぇのに、なんてザマだ。


一通り見終わって納得いったのか、うんうんと肯きながら携帯を渡された、時だった。




「トシゾウじゃない~。薄桜に入ったイケメン1年って、トシゾウだったんだ~」



「大丈夫……の、筈だったんだがな…」
「全然ダメじゃない」
「悪い。すぐに片づけるからちづを連れて帰ってくれるか」
「その言葉、信じていいんですか?」
「信じてくれ、としか言えねぇな」
「……分りました」
「あ、ちづに後で家に行くって伝えといてくれ」



その言葉に一つ肯いて、足早に千鶴の元へと戻っていくのを見送る。
そんな俺の傍へ寄ってくる女……こいつ、誰だっけか…



「なぁに、あの子。告白?」
「お前にゃ関係ねぇだろ」
「ひど~い。それに最近ぜんぜん遊んでくれないじゃない。もう高校入ったんだからいいでしょ?」
「良くねぇよ。もうお前とは遊ばねぇよ」


他の連中にも言っとけ。そう言って横目でちらりと見れば、不安そうな目で俺を見る千鶴をお千が促してるのが見えた。
そんな顔をさせたかったんじゃねぇんだ。
早く連れて行け。


いや、俺がここから離れる方が早いか?
でもいま千鶴と合流したら、こいつに千鶴の顔が割れちまうからな。
面倒は少ない方がいい…



纏わりつく女の腕を振り払う。
女がつけてるらしい香水の匂いがした。


「くせぇ…」
「え?」
「香水くせぇっつってんだよ」
「なによそれー!」


思わず口からこぼれた。
訊き返されたので、ここぞとばかりに眉間に皺を寄せてそう言えば、ぷりぷりと怒った顔をする。
分ってんだよ、ソレも計算された顔なんだろ?


気付いてみりゃ、俺は何から何まで千鶴と間逆の女と遊んでは、千鶴と比べていたらしい。


千鶴はこんな人工の匂いはさせねぇ。
せいぜい石鹸の匂いくらいだ。
自分が可愛く見える顔を計算して見せるどころか、自分が可愛いことも気付いちゃいねぇ。


なんだ、俺ぁ本当にバカだったらしい。
そう思えば、世間一般で言うところの修羅場だってぇのに鼻で笑っちまった。


「な、なによ…」
「いや?お前それ、本当に自分で可愛いと思ってんのか?」
「はぁ?」
「本性出てきたな。お前の計算は俺には効かねぇから、通用する他の男見繕えよ」


そう言えば張り手が飛んできた。
避けようと思えば避けれたが、やらせた方がキレイに切れるだろう。


さすがに爪でザックリいかれるとは思わなかったが……



「いって…」
「なによ…トシゾウが悪いんじゃない」
「気は済んだか?…二度と俺に近寄るなよ。他の女にも言っとけ。じゃあな」



視界の隅にチラリと呆然と立ってこちらを見ている千鶴達の姿が目に入ったが、背を向けて家へ向かう。
背後から喚く女の声が聞こえたが無視を決め込んだ。






血が滲んでいるであろう頬を、道行く人間にチラチラと見られるのが難点だな…
えらくヒリヒリするし、女の爪には猫みてぇに毒でもあんのか。


俯いて前髪で傷を隠しながら家路をたどる。
そうやって家の近くまで戻って、顔をあげれば千鶴が雪村家の前に立っていた。


「ちづ…早くねぇか?」
「お千ちゃんのおうちの人に送ってもらったから…」
「そうか…」
「傷…」
「ん?」
「手当てしないと」
「ああ、別にかまわねぇよこれくらい」
「だめ。痕になっちゃう、から」


どこか必死な風の千鶴が、俺の手を握ってくる。
ガキの頃ならまだしも、デカくなってから千鶴から手を取られたのはこれが初めてだな。
ンな事考えてる場合じゃねぇのに、暢気に俺の手を握って家へと引っ張っていく小さな千鶴の手を見た。







この手を失くしたくねぇ。



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