きみよりほかにはしるものなき 花かげにゆきてこひを泣きぬ

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若紫 6
もそっとひじちづ~








久しぶりに訪れた雪村家は、変わってなかった。
変わっちまったのは俺達の関係だけか。

「お兄ちゃん、コーヒーでいいですか?」
「ああ、何でもかまわねェよ」

リビングに通されソファに座って待てば、ケータイがメールの着信を告げた。
取り出して見れば姉貴からで、件名もなく、本文も一言。




from:のぶ
_____________



健闘を祈る!!(^_^ゞ



_____________






ちょっと待て、あいつはどこから見てやがったんだ!



もやもやとしながらケータイを睨んでいると、菓子とコーヒーを持って千鶴がキッチンから現れたので、急いでケータイをしまった。
その姿を千鶴に見られ、不思議そうな顔をされた。


おい、なんかこれ浮気男みてぇじゃねぇか。


テーブルの上を見れば、俺の前に置かれたコーヒーと、テーブルの向こうにいる千鶴の前に置かれた紅茶。


「なんだ、千鶴は紅茶なのか?」
「はい。コーヒーも飲めなくはないんですけど…」

なら、わざわざ別のモン淹れなくてもよかったのによ…
そうは思うが、その“わざわざ”を何事もなくやってのけるのが千鶴だからな。



「お兄ちゃん、お話って?」
「あ?っあ~話、な」


しまった。
なにも考えてなかった。
悩む俺の顔を、千鶴のまんまるな目が見つめてくる。
そんな目で見られりゃ、変な気が起っちまってもしょうがねぇだろ。
きっとこれで、高校の奴らは変に気を持っちまってるに違いねェ。



「あー、ちづ」
「はい」
「そうやって、男を見つめるのはよくねぇ。悪い事ァいわねぇから、やめろ」
「え?でも、人と話をするときは目を見るようにって…」
「いや、そうなんだけどよ…」

なんていやァいいんだ。


「お前が俺に惚れてる気がするって言えばいいのか?」
「えっ!?」
「あ?あッちが、違うぞ!いや、ちがわねェが…」


なんでそこで声に出るんだ、俺は!?
それもこれも、今さら自覚した感情と、千鶴の真っ直ぐな瞳がいけねェ!


「ご、ごめんなさい!」
「あぁ?」
「すぐに、お兄ちゃんのことはなんとも思わなくなるので…」

ん?
それってまさか…


「ちづは、俺が好きなのか?」
「えっ?アッああ~!違います~!!」


指摘すれば、顔を真っ赤にして拒否する。
何だよ、悩むこともなかったんじゃねぇか。
頭を抱えるように顔を伏せちまった千鶴の傍に寄り、頭に手を置いて撫でてみる。
さらさらの髪の感触が心地いい。



この髪が俺の体の上を滑れば気持ちイイだろうな…



って、そうじゃねぇだろ。

「なぁ、ちづ」
「はぃ~」
「今日気付いたんだが、俺ァずいぶん鈍い人間だったらしくてよ…いま、お前が思ってること言ってみちゃくれねぇか」


なんか女々しい言い方になっちまったか…?
いやでも、これくらい言わねぇと、千鶴は腹の中のモンを出さねえからな。



優しく頭を撫でれば、ゆっくりと顔をあげる。
そしてやるなと言ったばかりなのに、その瞳で俺を捕らえる。

とくり、と鼓動が跳ねた気がした。

頭を撫でていた手が、するりと千鶴の輪郭をたどり、俺の手がくすぐったいのか千鶴が目を細めて身をすくめる。
その仕草がまた、俺の中の欲を煽る。


駄目だ、やめろ。
ちづはまだ中学生だぞ…!


ヒュッと自分が息を飲んだ音に、パッと千鶴から手を離す。
危ないところだった…
普段ぽやぽやしてるくせに、突然“女”を見せられると負けそうになるな…


「お兄ちゃん…」
「ん?」

千鶴の感触を忘れるように、触れていた手を握り締めて気を落ち着けていると、千鶴から声をかけられた。

「お兄ちゃんも、こんなことしない方がいいと思います。お兄ちゃんにこんなことされたら、女の子はすぐに勘違いしちゃうと思う」




「しねぇよ、こんな事、千鶴にしか…」

千鶴以外の誰に、ンな事するってェんだよ。


「じゃあ、私にもしないで」
「…ンでだ?」
「……しちゃうから」
「ちづ?」
「期待、しちゃうから」



俯いて答える千鶴の顎に再び手を添えて、顔を上げさせるとその瞳には涙が溜まって今にもこぼれ落ちそうになっていた。


「私が特別なんじゃないかって。…そんなことないって、知ってるのに」
「…特別だ。俺には千鶴以上の女なんざいねぇよ…」
「…うそつき」


ちづの咎めるような目に、つい苛っとしてしまう。


「なんで嘘だと思うんだよ」
「だって…」
「だって?」
「いっぱい見たもん。女の子とデートしてるのも……おうちの前で、キスしてるのも…」



マズイ。
まさか千鶴に見られてたとは思わなかった。
確かに中学の三年間はあんまり誉められた生活はしてなかったが…
しかし完全に言い訳になるが、別に何人かヤった女の中で特別な奴がいたかと言われりゃ、答えはNOだ。
それは誓って言える。


「ちづ…」
「そうやって呼ぶのも、やめてください」
「…却下だ」
「…どうして?」




「俺が、ちづに惚れてるからだよ」




見開いた千鶴の目から涙が流れたのを見て、頬へ唇を寄せてそれを舐めとり、ちゅっと軽くキスをする。


「お…」
「お?」
「おおぉぉぉぉ兄ちゃん~!?」
「クッ動揺し過ぎだ、ちづ」
「だって…私やめてって言った~!!」



耳まで真っ赤にして両手を突っぱねて俺の体を離そうとするが、千鶴の力なんて可愛いもんだ。
あっさりその腕をやり過ごして、反対に腕の中へ抱き込んでみせる。


「お兄ちゃんはなして~」
「千鶴が俺の言うこと信じるなら、緩めてやるよ」


離しはしねぇがな。

「信じる!信じます~!!」
「よし」

約束通り、腕を緩めてやればはふりと息を吐きながら顔を上げる。






まったく、コイツは可愛いったらねぇな。




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