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きみよりほかにはしるものなき 花かげにゆきてこひを泣きぬ

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あの頃へ
フライングひじか誕ー!!


いや、ひじか誕の為に書き始めたんですが、内容が当日じゃないな。ってことに気づいたので、フライングで上げまするー(´ω`)


ED後蝦夷夫婦で、捏造娘ありです。

この話で、もう一本短いお話を書く予定。
というか書けたらいいな、と思ってます。
「とーとー」

幼い声に呼ばれて文机から顔をあげて振り向けば、最近ちっともじっとしてくれない娘が、庭を指さして何かを訴えていた。
いや、庭ではなく、庭にある桜の木を指して。

「どうした」
「んー!」

腰をあげて近付けば、しきりに桜を指さして何かを主張してくる。

「そうだな。桜が咲いてるな」
「さ…らー?」
「さくら、だ」

まだ言葉がおぼつかない娘を抱いて、桜の花が見えるように縁側に腰を下ろす。
膝の上には小さな温もり。
彼女は舞い散る花びらが気になるらしく、しきりに紅葉のような手を伸ばしている。

「蝦夷はようやく桜だが、今ごろ父様の生まれた辺りじゃ、菖蒲の花や藤の花が咲いてるんだぞ」
「ぶー?」
「しょうぶ」

故郷では、そろそろ端午の節句の準備をしている頃だろう。

「お前にも、見せてやりてえな…」

お前と、千鶴と。

最早帰ることは叶わぬ故郷へと想いを馳せる。
空の青と、若草の緑と、きらきらと日の光を浴びてきらめく川面。
きっと娘も喜んで遊びまわるだろう。
そして着物を汚して、千鶴に怒られるに違いない。
かつて、自分が姉に怒られたように。


―いつか、連れていけたら。

「歳三さん?お茶が入りましたよ」
「おう」

するすると、幽かな衣擦れの音をさせながら、盆を持った千鶴が近付く。

それまで桜に夢中だった娘は、母親の登場に、今度はそちらへ意識を向けている。
そんな娘の姿に少し、むっとして自分の方へと体ごと向きなおさせる。

「父様が居るってぇのに、お前は桜の次は母様か?」
「う~?」

きょとん、とわけが分らず首をかしげる娘に愛しさがこみ上げる。
顔は自分によく似ていると言われるが、ちょっとした仕草や表情が母親そっくりで可愛くてならない。
おしおきだと言わんばかりに、仕置きにならない口付けを、ぷっくりした娘の頬に贈れば、きゃっきゃと喜んでくれる。
それを微笑ましそうに見ながら、千鶴が隣に腰を下ろして茶を置いた。
そして喜ぶ娘に話しかけた。

「お父様になにを教えてもらったの?」
「花だよな」
「花、ですか?」
「ああ。桜に興味津々だったからな。それと、今時分なら多摩の方じゃ菖蒲や藤の季節だって言ってやったんだ」
「ああ、もう端午の節句ですものね」

未練がましいとは思うが、少しでも娘には江戸の風習を教えてやりたいと思っている。
しかし菖蒲湯をしてやろうにも、菖蒲がまだ咲いてない。
乾燥させた葉や根なら、薬用にあるが……

「内地と同じように、ってのは難しいもんだな」
「そうですね…」

同じことを考えていたのだろう、千鶴が少し沈んだ声で同意した。
父親も多摩の出なら、母親も江戸の娘だ。
本来なら江戸で生まれ育ってもおかしくなかったはずの娘だと、娘可愛さに始めたことであったが、やはり出来ることと出来ないことはある。

「悪いなぁ、菖蒲湯は難しいらしい」

謝ったところで娘はなにも知らないのだが、親心の問題だ。
不甲斐ない親で申し訳ないが、容姿だけはいいものを貰ったと思ってもらいたい。
それはそれで、男親としては心配なのだが。

「来年は、柏餅をたくさん作りましょうね」
「今年はねえのか?」
「少しは作るつもりですが」

柏餅、お好きでしたか?と目で問うて来る千鶴に笑いかけて答える。

「なに、俺がちょっと端午の節句に思い入れがあるだけさ」
「何かあったんですか?」
「俺が生まれたって聞いた親戚が、祝いに家に来た時に、節句のお飾りがあったんだと」
「あらあら、じゃあお節句の当日か…」
「ま、せいぜい一日、二日前辺りに生まれたんだろうな」

教えてやれば、ころころと笑う千鶴。
笑う千鶴を見て、腕の中の娘も楽しそうだ。

「何がそんなに面白いんだよ」
「いえ、まさに『尚武』に相応しい成長ぶりだと…ふふっ」
「勝手に笑ってろ」
「では、今年はお父様の為に、柏餅をたくさん作りましょうね」


あたたかい。

目を閉じれば、懐かしい故郷の、温かい家族の顔が、今は亡き友の顔が思い浮かぶ。
あの場所へ、家族を連れていけたら―

「なあ、千鶴…」
「はい」
「もし、俺が死んで…違うか。俺たちが死んで、来世ってもんがあったら、お前たちを連れて行きてぇ場所がある」
「現世もまだ終わってないのに、もう来世の約束ですか?」
「今から約束しとかねえと、お前はすぐ変なのに目をつけられるからなぁ」
「その時は、歳三さんが守ってくださるんでしょう?」

さも当然のように言いながら、慈愛に満ちた顔で見つめてくる。
出会った頃はあんなに子ども子どもしていたのに、今では母親の顔をしている。
いい女になったものだと、つくづく思う。
これを置いて往くのか、俺は。
いや、どうせ一回り離れてりゃ、遅かれ早かれ置いて往くことになるか。
そのことに気づけば、どこか開き直った気持ちになった。


「…そうだ。お前は、俺のものだからな」



はしゃぎ疲れたのか、腕の中で寝息をたて始める我が子を抱え直しながら思う。



―願わくば、あの頃へ。
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